マンション理事会のトラブル事例|解決するためのポイントをマンション管理士が解説
マンション管理組合の執行部である理事会は、数多くのトラブルを解決していかなければなりません。
マンション管理組合のトラブルには、「住民同士のトラブル」「管理組合運営についてのトラブル」「理事会内でのトラブル」など多くあり、1つひとつ、解決していくことが大切です。
今回は、静岡県伊豆にあるマンション管理士事務所『かなざし事務所』がマンション理事会のトラブルの事例ごとに解決するポイントを紹介します。
マンション理事会のトラブル事例と解決のポイント
マンションの理事会は、日々様々なトラブルを解決していかなければなりません。
トラブルをひとつ解決して安堵していると、また次のトラブルが発生して頭を悩ませることもあり、「マンションの理事なんてやるんじゃなかった・・」と後悔することもあるでしょう。
しかし、1つひとつ問題と向き合って解決することで管理組合の組合員からの信頼も深まり、良いコミュニティを形成できます。
そこで、ここでは実際のマンション理事会のトラブルを見ながら、解決するポイントを解説します。
住民同士のトラブルを理事会で解決するポイント
マンションのような集合住宅は、同じ屋根の下に様々な人が住みますので場合によっては住民同士でトラブルになることもあります。
本来、住民同士のトラブルには理事会は関与しないのが基本的なスタイルですが、実際のところ、住民同士のトラブルを理事会に相談される方が多いです。
住民同士のトラブルには、下記のようなものがありますので、それぞれ見ていきましょう。
- 騒音トラブル
- タバコのトラブル
- 駐車場トラブル
- ペットのトラブル
- モンスタークレーマーの対応
騒音トラブル
「上の階の子供の足音がうるさい」「隣で楽器を演奏していてうるさい」などの住民トラブルは、住民同士のトラブルの中でも多いパターンです。
このようなケースは、基本的に住民同士の話し合いでしか解決できない問題です。
なぜなら、音の感じ方は人それぞれで、集合住宅に住んでいる以上ある程度の生活音は受忍しなければならない中で現に発生している騒音が受忍限度を超えるものなのかどうかという点について管理組合が判断するのは難しいからです。
少なくとも、一方の当事者だけの話を聞いていきなり注意することは、トラブルの原因となるで慎重に対応しましょう。
管理組合が本気で仲裁に入るのであれば、下記のような対応が考えられます。
- 騒音計を用いて客観的な判断基準をつくる
- 近隣住民への聞き取り調査を行う
- 使用細則等で楽器の演奏についてのルールを定める
- 特定せずに全戸へ向けて注意書きを掲示する
まずは、当事者を特定せずに理事会から全体へ向けて注意書きをマンションの掲示板に張るなどの対応をして、様子を見て、それでも改善されなければ他の対応を考えるなど段階的に対応するのが一般的です。
タバコのトラブル
こちらも、マンションではよくあるトラブルです。
例えば、「下階の住人がバルコニーでタバコを吸っていて、匂いが上がってくる」などのクレームがあります。
こちらも基本的には住民同士の問題となりますが、バルコニーは共用部であることが多いので管理組合の問題に発展することもあるので注意しましょう。
さて、バルコニーの喫煙問題は2020年4月1日から「受動喫煙防止法」が施行されていますが、居住空間については規制の対象外とされています。
しかしながら、バルコニーの喫煙に関しては、下記のような判例があります。
名古屋地方裁判所 平成24年12月13日の判決
名古屋地裁は住民に配慮しない喫煙は違法だとして、マンションのバルコニーで喫煙を続けた男性に慰謝料5万円の支払いを命じました。この判例は、マンションの下の階に住む男性がバルコニーで吸うたばこの煙で体調を崩したとして、居住者の女性が150万円の損害賠償を求めたものです。被告側は、「使用細則にベランダでの喫煙を禁じる規則はない」「タバコの煙が原告の居室に流れ込むことがあったとしても、原告が窓を閉めれば容易に防止できる」などと主張しましたが、結果としては原告の請求が一部認められました。
しかし、上記の判決は全面的に原告の主張が認められたわけではなく、居住者にある程度の受忍義務があることにも触れていることに注意しましょう。
また、実務経験から言わせていただくと、判例の通りバルコニーの喫煙には法的問題が発生する余地があるものの、部屋の中の喫煙まで禁止されたものではないので、実際にバルコニーに出て喫煙していたのかということの確認も必要です。
つまり、上階でタバコの匂いがしたからと言って、ただ窓を開けてタバコを室内で吸っている可能性もあり、その場合にまで責任を求められるわけではないからです。
したがって、理事会としては下記のような対応が考えられます。
- バルコニーの喫煙に関して注意喚起を促す張り紙を掲示する
- バルコニーでの喫煙をしているのか確認する
- 管理規約や使用細則でバルコニーでの喫煙を禁じる
駐車場トラブル
駐車場のあるマンションは、駐車場でトラブルになることがよくあります。
まず、駐車場の利用者同士のトラブルについては理事会は関知しないことがポイントです。
管理組合としては利用者同士のトラブルは責任を負わない旨の規定を使用細則や駐車場契約書に記載するようにしましょう。
また、トラブル解決の方法としては、駐車場に監視カメラをつけるなどの対策も効果的です。
特に、機械式駐車場などは、安全上必要なゲートに車をぶつけて壊してしまったなど共用部分である駐車場を故意、又は過失により壊してしまうこともあります。
そのような場合に、防犯カメラがあると加害者を特定できますので設置をおすすめします。
その他にも、駐車場には下記のようなトラブルがあります。
- 不法駐車・迷惑駐車
- 駐車場利用料の滞納
- 駐車場のサイズ変更の要望
- 駐車場が足りない
- 駐車場が余っている
特に、不法駐車・迷惑駐車に関しては管理組合として毅然とした対応が必要です。
マンションのような集合住宅では、このような迷惑駐車を許すと無秩序な状況となり、公平感が失われトラブルの原因となるからです。
モンスタークレーマーの対応
理事会に対してクレームをつけるクレーマーのような住人の対応をしなければならないのは、理事会のつらいところです。
クレーマーに対して、対応方法を間違えるとトラブルに発展することもあるので注意しましょう。
しかしながら、モンスタークレーマーの要望を全て聞き入れていては、理事会が疲弊してしまいますから、難しいところですね。
クレーマーには下記のように2種類のタイプの方がいます。
- とにかく理不尽な要求をするタイプ
- マンションを良くしたいがために様々な提案をしてくるタイプ
まず、理不尽な要求に対しては毅然とした対応で拒否しましょう。
モンスタークレーマーは理事長に対して要望を言うことが多いので、理事長として判断せずに「理事会で検討します」と答えて複数人で対応するのがポイントです。
理不尽な要求でなければ、理事会で検討して回答すればよいでしょう。
しつこい場合には書面で回答したり、理事会議事録に回答を記載するなど個人で対応せずに理事会で対応するのが大切です。
管理組合運営についてのトラブルを理事会で解決するポイント
下記のような共用設備についてのトラブルも理事会で対応する必要がありますのでそれぞれ見ていきましょう。
- 設備異常などのトラブル対応
- 専有部のリフォームについてのトラブル
- 漏水トラブル
- 管理費滞納問題
設備異常などのトラブル対応
例えば、火災感知器の誤報や揚水ポンプ・排水ポンプの不作動などのトラブルについては管理会社や業務委託している設備業者が対応しますが、管理組合の役員になったら緊急時の連絡先がわかるようにしておきましょう。
基本的には管理会社が対応しますが、自主管理の場合や管理会社につながらないケースもあるので、そのような場合には理事会が対応する必要もあるでしょう。
特に、火災報知機が鳴りっぱなしになれば多くの住民が混乱しますし、排水ポンプが機能しないと水が溢れて二次被害につながることもあるので一次対応は非常に重要です。
専有部のリフォームについてのトラブル
マンションでは、自分のお部屋は専有部分になりますが、リフォームなどに制限がある場合があります。
例えば、床のフローリング材は防音性能の高いL45以上にしなければならない、躯体に穴を開けてはならないなどの施工上のルールや、近隣の部屋に工事の挨拶に行く、工事の内容と連絡先を掲示するなどの工事の実施についてのルールもあります。
しかし、このようなルールを守らずに好き勝手にリフォームをする区分所有者もいて、トラブルの原因となります。
実務経験上、「バルコニーに露天風呂をつくる」など一般的には考えられないようなリフォームをする所有者もいました。
そのような場合には、管理規約に則り工事の差し止めなど早期に対処しないと、後々のトラブルに発展しますので注意しましょう。
漏水トラブル
築年数の多いマンションでは、漏水トラブルなどもあるのが特徴的です。
漏水トラブルには、下記のような2種類のパターンがあります。
- 専有部分→専有部分へ漏水(例:5階の部屋の給水管が破裂し、4階の部屋に被害を与えた)
- 共用部分→専有部分へ漏水(例:共用部分の立管から漏水し、専有部分に被害を与えた)
漏水の一次対応は、管理会社などに任せるとして、その後の対応は理事会で検討する必要があります。
専有部分から専有部分への漏水に関しては、本来個人間の問題ではありますが、加害者が保険に加入していない場合などは管理組合で加入している個人賠償保険で対応しなければならないこともあります。
また、共用部分から専有部分に漏水事故があった場合には、管理組合の責任となりますので、こちらもマンション総合保険などで対応する必要があります。
多くの場合、保険が適用されますが多くの場合、マンション総合保険も利用すると次回の保険料率が上がりますので、トラブルになることがあります。
例えば、本来個人の責任である専有部分から専有部分への漏水事故も加害者が保険に加入していない場合に管理組合の保険で賠償してほしいと相談されるかと思われます。
このような場合、加害者としては自身も払っている管理費の中でマンション総合保険に加入しているのだから保険を使う権利があるという主張をすることが多いです。
しかし、理事の中には次回以降に保険料が上がると管理組合会計を圧迫するので使わせたくないという方もいるでしょう。
そのような場合に意見が対立して、トラブルになることがあります。
したがって、どのような場合に管理組合の保険を適用できるのかを日頃から十分に検討し、組合員の皆様には強制はできないかもしれませんが、個人的に火災保険への加入を勧めるなどの注意喚起をすることが重要です。
管理費滞納トラブル
管理費滞納があると、管理組合運営の大きな問題になります。
管理費滞納を放置するほど管理費を回収するのが難しくなることを頭に入れておきましょう。
そもそも、管理費を滞納する時点で滞納者が差し押さえできる資産を持っている可能性は低く、最終的には競売などの法的措置で回収をしますが、弁護士に依頼すれば弁護士費用が発生しますし、滞納額が大きくなれば物件の価値よりも滞納額が大きくなり、回収不可能な状態になることもあります。
したがって、大きなトラブルになる前に管理会社には督促の指示をし、支払いがなければ粛々と法的措置を実施することが大切です。
理事会内のトラブル
ここまで、住民同士のトラブルや管理組合運営についてのトラブルについて解説してきましたが、理事の間でトラブルがあることもあります。
ここでは、理事会内のトラブルと解決のポイントについて紹介します。
理事のなり手不足
ここまで解説してきた通り、管理組合の理事会は多くのトラブルの対応をしなければなりません。
マンションの所有者の方の中には、「理事になりたくない」と理事になることを拒否される方も一定数いらっしゃるでしょう。
また、居住者の高齢化により健康面などの理由で「理事になることができない」方も増加傾向にあります。
しかしながら、多くの場合、管理規約には理事〇名など理事の定員が記載されているので最低の定足数を集めないとそもそも理事会が成立しないという事態もあり得ます。
このような状況は致し方ない部分もあるのですが、下記のような対策で解決することもあります。
- 輪番制を採用する
- 役員就任を拒否した場合には協力金を課す
- 第三者の専門家に依頼する
- 役員の定足数を最低人数に改正する
例えば、マンション管理士など第三者の専門家を外部役員として理事会に加えることも可能です。
マンション管理士の仕事内容については、下記の記事でもくわしく紹介していますのでぜひご覧ください。
>マンション管理士ってどんな仕事?|管理業務主任者との違いは?
理事が理事会に出席しない
理事になったのに理事会に出席しない理事がいると、トラブルの原因となります。
特に、リゾートマンションでは現地に住んでいない方もいらっしゃるので理事会のために現地に行かなければならないのが難しく、理事会に出席しない理事も多いです。
このような場合に、理事会に出席している理事は、「けしからん」と考え、トラブルになることもあります。
そのようなことにならないためにも、下記のような対策が考えられます。
- 遠方の理事が出席しやすいようにリモートで理事会を開催する
- 理事会の出席率に応じてペナルティを課す
特に、リモート理事会は遠方の理事でも参加しやすいので活用するようにしましょう。
理事長又は一部の理事が独裁的
あまりあることではありませんが、理事長や一部の理事が独裁的で何でも勝手に決めてしまうことがあります。
もちろん、管理組合のことを思ってやっていることが多いのですが、理事会で決めるべきことを勝手に決めてしまうのはやはり問題です。
話し合いで解決することをおすすめしますが、折り合いがつかない場合には理事長を解任することも考えられます。
理事長の解任は明確な規定がないことが多いのですが、管理規約に定めがない場合には、一般的に理事会の決議で解任できるとされています。
また、理事の職については、総会の決議で解任できます。
総会の招集権は理事長にありますが、下記のような方法で総会を招集することもできますので頭に入れておきましょう。
総会の招集方法
(組合員の総会招集権)
第44条 組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは、2か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなければならない。
2 理事長が前項の通知を発しない場合には、前項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる。
上記の通り、標準管理規約では、組合員総数の5分の1以上及び議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得ることで臨時総会を招集できるとされています。
トラブルのない管理組合運営を行うポイント
上述したように、マンション管理組合の理事会では多くのトラブルに対応しなければなりませんが、トラブルを少なくするようにすることが大切です。
ここでは、トラブルのないマンション管理組合にするためのポイントを紹介します。
新旧理事会の引継ぎをしっかりと行う
トラブルの多い管理組合は、新旧理事会の引継ぎがなされていないことが多く、管理組合によっては役員全員が同じ任期で一斉に退任することもあります。
そのような場合、前期に何をしてきたのかなど新理事会に引継ぎがなされないと、これまで検討してきたこともなくなりますし、新理事の方は何も知らない状態でゼロから始めなければなりません。
したがって、新旧理事会の引継ぎをしっかりと行わないと、継続性がなくなることでトラブルの要因となるでしょう。
例えば、理事を半数改選にする、旧理事は新理事会に2回程度は参加して引継ぎを行うなどの工夫が必要です。
合意形成をしながら管理組合運営を進める
管理組合のトラブルをなくすためには、理事会と他の組合員の信頼関係が大切です。
したがって、何かを決めるときは常に合意形成を行いながら、管理組合運営を進めていくことが重要なポイントです。
理事会で決めることができないときは、必ず総会を開催しましょう。
また、重要な議案については説明会やアンケートなどをとって、管理組合全体の意思として管理組合を運営するようにすることで、他の組合員との信頼関係が生まれます。
大切なのは、「理事会が何を考えているのか」ということを常に情報共有していくことです。
例えば、下記のようなアイデアがありますので、参考にしてみてください。
- 理事会議事録を全戸配布する
- 定期的に理事会便りなどを配布する
- 設備のトラブルなどは常に掲示板等でお知らせする
外部専門家を採用する
マンションの管理組合運営は、一般の方では処理しきれないトラブルも発生します。
そのような場合は、管理会社に頼るのも一つの手段ですが、管理会社は管理委託契約書に記載の業務の範囲外のことは基本的には動いてくれないことが多いです。
そこで、外部の専門家を採用することで早期に問題解決をすることができます。
高齢化により、理事のなり手不足は、今後さらに深刻化する可能性が高いです。
極論ですが、理事長代行サービスなどを利用して外部専門家に管理組合運営を代行させることも検討の余地があります。
まとめ
今回はマンション管理組合の理事会トラブルについて紹介しました。
管理組合運営には、様々なトラブルがありますが、1つひとつ丁寧に合意形成をしながら解決していくことが重要です。
今回紹介した情報が理事会運営で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
投稿者プロフィール
-
金指 安弘
マンション管理会社でフロントマンとして勤務。
マンション管理士 かなざし事務所を設立。
行政書士 かなざし事務所を設立
保有資格:マンション管理士
管理業務主任者
行政書士
宅建士有資格者
第二種電気工事士
二級ボイラー技士
乙種第四類危険物取扱主任者
甲種防火管理者
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